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慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診療

(脳神経内科講師 伊佐早健司)

1. 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)について

1-1 CIDPとは?

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は「力が入りづらい・動かない」や「しびれ」などの症状が起きる末梢神経の疾患です。典型的には腕が上がりづらい、風呂で頭が洗いづらい、シャワーを長く持っていられない、指先で細かい作業ができない、ボタンがつけづらい、お箸が思うように使えない、階段の上り下りがうまくできない、転びやすくなるなどの症状が出ます。また、手先や足先がビリビリする、痛みがあるなどの感覚症状も出ます。
体を動かすには、動きの中枢である「脳」から実際の動きを司る「筋肉」までの道のりの、どこかが壊れると「力が入りづらい・動かない」といった症状になります。「脳」→「脊髄」→「末梢神経」→「筋肉」と刺激が伝わり、「末梢神経」が障害されることで刺激が伝わりづらくなります。
末梢神経は電線のような構造をしています。電線の外側を覆っている絶縁体に当たる部分を髄鞘と呼ばれます。CIDPではこの髄鞘が自らの免疫により障害され、免疫介在性末梢神経障害に分類されます。
CIDPは人口10万人あたり3−4人であり日本国内で5000人程度と言われ、2−70 歳に発症、わずかに男性に多いとされています。症状は2ヶ月以上かけて進行し、寛解と増悪を繰り返す特徴があります。ゆっくり進行していくため診断がなかなかつかないこともあります。

1-2 CIDPの診断

CIDPの診断は脳神経内科での問診、診察に加え、末梢神経伝導検査が重要となります。
手首や肘の末梢神経を電気刺激し、手先の筋肉の収縮を記録することで、前述の髄鞘が障害されていることを確認することができます。その他の検査としては筋電図、神経根評価の脊髄MRIや、超音波検査などが行われます。末梢神経障害をきたす疾患は多岐に渡り、確実に診断しその後の治療につなげるために、しっかりとした検査を行うことが重要です。
血液検査ではM蛋白血症やPOEMS症候群などの疾患を鑑別します。

2.CIDPの治療

CIDPは自らの免疫異常により末梢神経の髄鞘が障害されると考えられています。このためCIDPの治療の主体は免疫を介したものとなります。ステロイド療法、免疫グロブリン大量療法、血液浄化療法が主な治療法となります。これらの治療を行うことで、症状が改善し悪化しない「寛解」と呼ばれる状況となることを目標とします。「寛解」とならない場合も生活への支障を極力減らし、治療による副作用を最小限となるように治療を行なっていきます。

2-1 ステロイド療法

自己免疫の疾患で多く用いられるステロイドを内服します。症状が重篤であった場合はステロイドパルス療法と呼ばれる点滴療法を行います。ステロイドには糖尿病や胃潰瘍、骨が脆くなる、感染しやすくなる副作用があるため、こうした副作用への対策も重要です。長期的に投与が必要でなくなる方もいますが、長期的にステロイドが必要となることもあり、この場合は免疫抑制剤を使用することもあります。

2-2 免疫グロブリン大量療法

免疫グロブリンは血液内に存在する免疫を司る蛋白です。献血により頂いた血液から免疫グロブリンを抽出し、生成された製剤を用いて入院管理の元、5日間連続で点滴投与を行います。HIVやB型・C型肝炎などの既知の病原性は除去されていますが、未知の病原体に対する感染の危険性があります。
最近では、免疫グロブリンの皮下注射による維持療法も保険収載され、多くの患者さんが入院することなく免疫グロブリン療法を行えるようになってきました。皮下注射では静脈投与に比べ頭痛や皮疹などの全身性副作用が少ないことがわかっています。

2-3 血液浄化療法

血液中の異常免疫を司っていると考えられる物質を血液の濾過を行うことで体内から除去する治療方法です。脳神経内科のみならず血液浄化療法に精通した腎臓内科医師との協力が必要となります。首の静脈からカテーテルを挿入する必要があり、入院での管理が必須です。当院では腎臓内科医師との連携により多くの患者さんでこの治療を行なっています。特に症状が重篤な場合に行われることが多いです。

3.CIDPと診断されたら

CIDPと診断されたら、治療だけでなく様々な支援体制を準備していくことも重要です。ここでは当院で行なっている支援体制についてご説明します。

3-1 社会保障制度

CIDPは指定難病に該当し、医療費助成対象疾病に含まれます。指定難病とは難病法により規定された疾患であり、医療費の補助を受けることができます。治療費用が多くかかるものもあり、支援体制を整えることも重要です。

3-2 両立支援

2021年3月に厚生労働省より「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」が策定されました。医療の進歩により、病気を抱えながら就労している方が多くなってきています。仕事が理由で適切な治療を植えることができない、病気があることにより離職してしまうことがないように、支援する体制が少しずつ進んでいます。
当院ではこうした方々の支援を目的とした「両立支援外来」が設置されています。CIDPの方でも筋力低下や痺れがあっても仕事が継続できるように、必要に応じて「両立支援外来」をご案内しています。

4.外来のご案内

脳神経内科領域は、脳卒中やパーキンソン病、片頭痛、てんかん、神経免疫疾患など多岐にわたります。その為、脳神経内科医師も幅広い知識と経験が必要とされます。特に末梢神経障害の診断は様々な疾患を鑑別する必要があり、末梢神経疾患を専門とする医師に相談していただくのがよいと考えます。当院では、随時外来診療を受け付けておりますが、「水曜日午前」あるいは「第1/3週土曜日午前」にお越しいただければ、この疾患を特に専門で診療している医師により対応させていただきますので、どうぞご活用ください。

難病情報センターホームページ(2021年12月現在)から引用

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