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多発性硬化症に対する画像・治療

本邦では,多発性硬化症の再発予防薬として,IFNβ製剤が唯一の保険適応薬でありましたが,2011年11月に経口フィンゴリモドが,再発寛解型多発性硬化症の再発予防および身体的障害進行抑制を適応として新たに使用可能となりました.当院でも2012年8月に1例目が導入され, IFNβと同率に至るほどの急速な導入例の増加を示しています.

このフィンゴリモドは,世界初のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であり,冬虫夏草の一種,Isaria sinclairii由来の天然マイリオシンの構造変換により得られた化合物であります.その作用機序はスフィンゴシン1-リン酸によるS1P1受容体の内在化作用により,二次リンパ系組織からのリンパ球移出を阻止し,リンパ球の循環動態を抑制して強力な免疫抑制作用を発揮するものであります.海外でも2010年に認可されたばかりであり,副作用の蓄積も未だ少ないのが現状であります.現在までの重大な副作用として,

①初回投与時の徐脈性不整脈と突然死,
②感染症,
③黄斑浮腫,
④肝機能異常,
⑤妊娠,胎児に対するリスク,
⑥多発性硬化症の再発,
⑦皮膚癌のリスク

などが挙げられています.特に徐脈性不整脈と突然死については,導入24時間以内に心停止,または原因不明の死亡に至った症例も報告されています.このため2012年8月に発表された多発性硬化症治療ガイドライン追加情報2012においてもグレードC1(科学的根拠はないが,行うように勧められる)ではありますが,循環器を専門とする医師と連携するなど,適切な処置が行える管理下で投与を開始することが必要であり,入院管理下で投与開始するのが望ましいと記載されています.

安全性については,フィンゴリモド発売元のDrug Information中にも記載されていますが,承認時までの副作用発症が国内臨床試験で161例中140例(87.0%)と高率であり,肝機能検査値異常が50例(31.1%),鼻咽頭炎が45例(28.0%),徐脈が18例(11.2%),白血球数減少が16例(9.9%)でした.同様に外国臨床試験でも2344例中1514例(64.6%)に副作用を認め,リンパ球数減少が375例(16.0%),ALT(GPT)増加が180例(7.7%),頭痛が170例(7.3%),鼻咽頭炎が170例(7.3%)でした.さらに本邦での最新報告によると,822例中335例(40.75%)に副作用を認めており,集計時期の違いによりばらつきがありました.われわれ全6例の副作用も少数例での評価でありましたが,臨床試験の結果同様にフィンゴリモド導入6時間までの徐脈,程度差はあるがリンパ球数の減少を,特に導入15日以内に認めており,この期間での厳格な観察が必要と考えられました.また肝障害,特にγ-GTPの悪化例も数例に認められましたが,本邦での全例調査においても肝障害は4.99%,特にγ-GTP増加が3.41%と高率で,今後,同症例での経過観察が必要と考えられました.

感染症の合併については,われわれの症例でもフィンゴリモド導入7か月後に帯状疱疹(再活性)を合併しましたが,内服中断することなく重篤化せず回復しました.しかし文献的にはヘルペスウイルスよる感染症が多く,重篤化したヘルペス感染症や進行性多巣性白質脳症による死亡報告もされており,感染症の発症時には薬物調整に慎重な対応が必要と考えられました.今後リンパ球数の減少が,どの程度となった場合にフィンゴリモドを中止とするのか,投与間隔を変更するのかなどの基準を決めるために,さらなる症例の蓄積が必要と考えられました.

フィンゴリモド関連性黄斑浮腫の治療法について

フィンゴリモドの副作用として黄斑浮腫が知られていますが,発症頻度が0~1.6%と低く,発症時期も導入3~4か月までに多いとされますが,導入1~2週間または2年後との報告もあります.また基礎に糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,網膜血管閉塞症,加齢黄斑変性をもつ患者ではより発症しやすいとされています.
この黄斑浮腫の発現時にはフィンゴリモドの中断で大部分の症例は,症状が消失することより,早期発見が治療上重要となります.このためフィンゴリモド投与開始1・3・6か月後,それ以降は6か月ごとの視力検査,眼圧検査,眼底検査,細隙灯顕微鏡検査,光干渉断層計などの眼科学的検査の定期的な施行がフロチャート化されるに至っています.しかし一方で,フィンゴリモド中止のみでは改善せず,Triamcinolone眼内注入併用の必要例も報告されていますが,逆にフィンゴリモドを継続し併用療法なしで軽快した症例は我々の調べ得た範囲では報告されていません.

われわれは,本症例の様に時間はかかりますが,フィンゴリモドを継続投与し,多発性硬化症の再発を抑えながら,注意深い頻回の眼科的診察を要するが未治療で改善する症例もあることを報告しています.今後の更なる症例の蓄積が必要であります(秋山久尚)

(文献 Akiyama H, Suzuki Y, Hara D, Shinohara K, Ogura H, Akamatsu M, Hasegawa Y. Improvement of macular edema without discontinuation of fingolimod in a patient with multiple sclerosis. Medcine. 95(29):e4180, 2016)

多発性硬化症

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